雷都
この町の好きなところを書こうと思う。
ひとつに、雷とともに豪快な雨が降るところ。
黒い雲がどこからやってきて一面が暗くなり、すーっと冷たい風が吹いたと思うと、地鳴りのような雷が鳴る。ショーの幕開けみたい。
途端に、ざあざあ雨になる。(時には前が見えないほど!)
そして気が済むと何事も無かったかのように晴れ空になったりもする。
その潔さがまたいい。
本当に突然やってくるので、折りたたみ傘が手放せない。
雨に滲む都会を眺めるのが好きだったけれど、濡れた田舎風景もまた違った味わいがあり、気持ちがいいと思う。
雨の東京はドラマが起こりそうだけど、ここはお風呂場の窓に張り付くカエルがいるだけだ。
洗いざらしの髪につっかけを履いて、外に出る。
すっかり冷やされた空気をおなかいっぱい吸い込む。
ここに越してくる前、夫がこの町について、「雷の都と書いて、雷都というんだよ」と教えてくれた。
そして鳴り響く雷の動画を送ってくれもした。
まだ私はこの土地の本気の雷を知らないらしい。
声を出して驚くよ、と言われている。
20230919
夫を送り出したあと、義母と朝食を採り、洗濯物を干し、義父と家を出た。
女は姓が変わるとやることだらけだ。
役場へ、銀行へ、今日は警察へ。
私はペーパードライバーということでもないが、少し遠くや交通量の多い場所へ出かけるときは大抵義父が連れて行ってくれる。
運転中、ぽつりぽつり義父と話をする。
越してきたころより大分打ち解けたように思う。
口数は少ないけれど愛情深い人だ。
窓の外は金色の田んぼが風に揺れている。
9月も終わりに差し掛かるというのに日差しはまだ強くて、顔や首をじりじり照らす。
手続きは滞りなく済み、義父の用事にも何件かついていって、昼前に帰宅。
洗濯物はすっかりからからに乾いていた。
夫に今朝頼まれていた、新品のタオルの水通しをすませながら、義母が買ってきてくれたピザトーストを3人で分ける。
私と義母はリビングのソファに座り、ラタンの椅子をテーブルにしてお皿を並べる。
昼食を済ますと学校のために駅まで送ってもらう。
駅の待合室はエアコンがかかっていて快適だ。
イヤフォンの充電を忘れていて、失敗したな、と思う。
学校の先生はとても早口で、時々独り言なのか話しかけられているのかわからないことを言う。
生徒は私のほかに2人男性が来ていた。
私はどちらかというとのろまな性格なので、先生が100話して、1つ返すといった感じになった。優秀な人なのだな、と思った。
優秀が故に人を見下してしまう質の。
教材を持って帰るための用意をしていなかったので、抱えて帰る羽目になった。
学校を出たとき、真っ黒な雲が空を覆っていた。
雨が来そうだな、と思い急いで帰路につく。義父に迎えを頼む電話。
最寄りへ着くと地面が湿っていて、タオルのことを思う。
家のそばは無事だったらしい。
この地域は本当に局地的に雨が降る。
(どっちにしても、義母が取り込んでくれていたのだけど)
夜ごはんの支度を済ませ、早く食べてしまうと、自室に戻って少し眠った。
大きな雷が落ちる音で目覚めたすぐあとに、お風呂の順番が来て階下から義母の声がする。
ドライヤーをし終わると大抵夫の帰る時間になる。
夫の夕食を準備し、洗い物を済ませて自室に戻った。
今日は一日鼻の調子が悪かったせいか、夫の徹底して自分のことを何もしない姿勢のことが気になって、落ち込んでくる。
私は人に何かを伝えるのが苦手で、いつも緊張してしまう。
傷つけたり傷つけられたりすることが目に見えていて、億劫になってしまう。
そのせいでずっと同じ事柄に悩まされてしまうとわかっているけれど、解決の道はまだ見つからない。
夫がお風呂から出てきたので、気を取り直してビールでも飲むことにする。ご機嫌の妻でいるために。
morning routine
朝6時起床。
5時50分にかけているはずなのだけれど、いつも1度目のアラームを止めた記憶がない。
夫のお弁当を作るために1階に降りる。まずは顔を洗って、洗濯機を回す。
卵焼き、小松菜、ウインナー、出来合いの揚げ物…
義母から指南され引き継ぎしたお弁当作りだけれど、内容はいつも大体同じだ。
日々業務を「こなす」ためには、ルーティン化が重要だと義母は言う。
決まり切っていれば安心だから。と。
それが終わると、夫が起きてきたときのためのお茶を淹れる。
それから、背広をかけるためのハンガーラックを和室から出して、夫の席の前に置いておく。これは義父から教わった。
夫はだいたい7時15分頃降りてくるので、それに合わせて冷蔵庫からトマトジュースを用意する。
両親は夫が朝食を採らないことを気にしていたので、最近になって始めたこの習慣をとても喜んでいる。
この家で仕事に通う人は夫だけなので、みんなして世話を焼く。
もちろん片づけだってすべてやる。夫の部屋の窓とカーテンだって開ける。
朝の夫は王様みたいだ。
夫の支度の間に化粧とベッドメイクを済ませ、少しすると夫が家を出ていく時間になる。
――今日は遅い?
――早く帰るよ。
このやりとりも毎日同じだ。ピースサインして出ていく。
この家の方々は各々のルーティンに沿って生きていて、私もその中にそっと組み込まれた。(信じられないことだけれど)
もうすぐ、この家に来て3週間になる。
20230626
困った。睡眠がうまくとれない。
20230602
「明日のランチは来なくていいからね」
昨晩、バイト先の店長にそう言われたのは、災害級の大雨予報が出ていたからだ。
シフト上がりに頂いたビールを飲みながら、
「そうですか、じゃあ安心して飲めます」なんて言ったけど、今にも雨が降り出しそうで、早めに帰宅した。
翌朝。
ゆっくり寝ていてもいいのだけど、習慣でいつもの時間に起きる。まだ雨は強くなさそうだ。
のんびりと朝食を済ませ、洗濯をする。(我が家は玄関がサンルームのようになっていて、常に部屋干し)
YouTubeの生配信のアーカイブを流しながら、掃除もする。
いきなり大声で歌い出したり、びっくりするほど下品な話題がながれたりするが、ラジオ形式で何かしながら耳を傾けられるので気に入っている。
明日は彼の来る土曜日なので念入りに床を拭いた。
うさぎは相変わらず引きこもりで、もしかしてフローリングの感触が不快なのかも、と思い毛布を出してきて敷いてやるが、あまり効果はなさそうだった。
胡座をかいてそこに入れてやると、しばらく目を細めて撫でられていたが遊びたそうにはしなかった。
ふわふわの被毛の中の、ぐにゃりとした本体。
うさぎは、猫に似ていると思う。
彼はおなかだけが白く、それ以外は薄茶色で、食パンみたいな配色をしている。ピーターラビットと同じ色。(ネザーランドドワーフの中では、オレンジ、といわれる種類らしい)
今週末の彼へのお土産は、食パンにしようと思った。
夜のバイトは17時半から。
早めに家を出て、近所の高級食パンやさんで買おう。と思い、
シャワーを浴び、化粧をして家を出ようというところで尋常ではない雨に心を折られた。
ドアを開けていられないのだ。(この家はベランダと玄関が直結した作りで、屋根がない)
仕方なくバイト先に電話をする。
雨が酷いので、少し落ち着いてから家を出てもいいですか。と聞くと、無理してこなくて大丈夫だよと。
さっきしたばかりの化粧を落とし、着替えたばかりの服を脱ぐ。
雨は弱まる気配もなく、自宅に閉じ込められてしまった。
支度の時間までそうしていたので、本を読むのにも飽きてしまい、仕事をしている方がよかったのに。と悲しくなってしまう。
ひとりで何もしない時間、というのが、私は苦手だ。
元来寂しがりなのだと思う。
仕事をしてばかりだったというのもあるが、自由な時間がたくさんあると途方に暮れてしまう。
おなかもすいていない。掃除は済んでしまったし、出かけることもできない。
そういう時、私は早めに眠ってしまうのだが、全然眠くもなかった。一日家にいたし、疲れていないのだから当然だ。
眠気が来るまでの時間つぶしにとこのブログを書いているが、とうとう彼からの連絡が来る時間になってしまった。毎日だいたい0時から1時のあいだ。
1度やんだ雨がまた降り始めたようだ。
日曜日、凛として時雨のライブに行くという彼が、「凛として豪雨状態」なんて言っている。冗談を言うのが好きなのだ。
まだまだ眠くなる気配はないけれど、雨音に誘眠効果があると信じて目を瞑ることにする。
おやすみなさい。
20230529
仕事の後、軽く夕食を済ませて外に出た。
自宅から徒歩5分のところにあるショッピングモール内の下着屋さんで、採寸をお願いして、礼儀的にひとつ買って店をあとにする。
化粧品売り場といい、性別を強く感じさせる場所はどこか居心地の悪さを感じてしまう。
梅雨入り直前の濡れた街をぐるっと一周して、駅の下のプロントに入る。
「22時ラストオーダーですが、大丈夫ですか?」
パーマをかけた若い男の子が早口で投げかけてくるのに、大丈夫です。と返事して奥の席に進む。22時半に閉店なのは知っていて、その時間に自然と追い出してもらえるのが好都合なのだ。
21時半。
先にサラリーマン風の男性が2人、酔った様子で会社の愚痴で盛り上がっていた。
「だいたい、言ったってなおらないんだから困るよなあ!」
どこの会社も同じようだと思う。
赤ワインを頼んで、文庫本を開く。
江國香織さんの「やわらかなレタス」。
私は、カフェに一人で行って過ごすということをほとんどしない。(誰かとの待ち合わせの時間調整くらいだ)
ただ、彼が時々そうするというので真似してみただけなのだった。
あっという間に22時になる。さっきの彼がラストオーダーを取りにきて、おかわりを頼み、ナッツも頼もうかと思ったけど、きっと塩付きだろうなと思ってやめておいた。
さっと2杯目を飲むと首の後ろあたりにじわっと火が点ったような感覚になり、会計をして店を出る。
「お客さん!」
さっきの若い店員さんが追いかけてきて、振り向くと、
「1円忘れてます!」だって。
それは私が床に落ちているのを見つけて、テーブルにのせてきたものだった。
まじめさとかわいらしさに笑ってしまった。
20230524
がさがさがさばたばたばたばたん!
という音で驚いて目が覚めた。
なかなか外で遊ばないうさぎを無理やり外に出して、自分は眠ってしまったのだ。
遊びの一環で走り出したらしい。うさぎは、自分で暴れておいて自分で驚いていた。(真っ黒な目をまん丸に見開くのだ)
私の作戦は成功したらしく存分に遊んだ形跡があった。
午前0時。最近はこんな感じで、細切れに睡眠をとっている。
仕事で嫌なことがあると、眠ってしまうのだ。
眠るといくらか心が落ち着くから。
彼が夕方教えてくれたバラエティ番組をつけて、缶ビールを開け、次の眠気を待つ。
彼の住む土地の商店街で、芸人さんが次々出てきてボケる、という内容。
知っている場所なら尚、楽しいだろうなあと思う。
彼と一緒に観て、色々聞きながらみるのも面白そう、と、眺めていたら、携帯から通知音がした。
彼からの連絡はたいてい0時過ぎ。
私たちは文章を愛しているので、長いメッセージを一日に一度、交換する。
それと共に好きな音楽が送られてきたりして、とても嬉しい。
今夜はフェアーグラウンド・アトラクションの「A Smile In A Wisper」だった。
エディ・リーダーの声は冬に合うと思う。なぜかはわからないけれど。
同じ曲を好きだと嬉しいし、知らない曲が送られてくるともっと嬉しい。
彼の教えてくれたものが私の一部になる。
あの人の妻になる気がしているし、あの人もそのつもりだと思う。もうすぐ、住み慣れた土地を離れる。
2時には寝ないとな、と思うが、きっと無理だろうなと思い直し、残りのビールを飲んだ。